東不動沢は八海山の裏側にあり、人目から切り離されている。里からは、その姿を一切うかがうことができない。越後駒ヶ岳や極楽尾根から目視できるが、冬はあまり人が入らない。下部のデトノアイソメは、夏なら十二平からちょっと歩けば行くことができる。一方、冬はかなり遠のく。南風、西風の影響を強く受ける稜線下に位置しており、雪庇が発達した上部からは内部を覗き込みにくい。視覚的、地形的、心理的な隔絶性がある。長らく滑走されてこなかったのは、技術的な困難さではなく、こうした秘部と言える性格にあるだろう。

2025年1月12日に越後駒ヶ岳より撮影。
| 日程 | 2026年2月4日 |
| メンバー | かなこ、中澤 慧 |
| タイム | 広堀川橋(2:00)-阿寺山(6:30)-五竜岳(8:30/8:45)-入道岳(10:10/11:00)-東不動沢(11:15)-デトノアイソメ(12:00)-荒山(15:35) 合計13時間35分 |
深夜1時前にコンビニに集合して、荒山集落へ車を回してから阿寺山の登山口へ移動。準備をして、2時に出発する。通い慣れた阿寺山へ向けて黙々とラッセルしていく。壁のあたりは雪が深く、苦しい。雪はよく、このまま滑ったら最高だろう。二日前が満月で、今日も明るい。雲が流れて、月が顔を出したときは、ヘッドライトを消して、月灯りだけを頼りに歩いた。かなこは眠いと連呼している。地形が緩やかなので、容易に五竜岳方面へ巻いて進むことができる。ただ、日の出には間に合いそうな時間だったので、巻かずに一度稜線へ上がることにした。太陽が見たい。
稜線にあがってみたものの、雲がどんよりとしており、朝日をみることはできなかった。風はおだやかだったので、休憩してから五竜岳方面へ向かう。


北アルプスや頸城、苗場の方は晴れて、染まっている。なんだよおと悪態をつきながら歩く。少しずつ西の方から雲が取れていき、期待が高まる。雪はあまり沈まなくなり、快調に進んでいく。越後エリア初のかなこに、山や渓の解説を延々としていた気がする。

風が強くなると準備が面倒なので、五竜岳手前にできる窪地でハーネスをつけてから進む。おにぎりを食べたからなのか、景色が見えたからなのか、眠気が取れたからなのか、かなこは急に元気になっていた。

東不動沢・西不動沢の中間尾根の様子を見たかったので、五竜岳は巻かずに登ったが、雪庇が張り出していて沢の様子が見えない。オカメノゾキ方面へ行って、スキーをアンカーにしてロープを結ぶ。雪庇に近づいて様子を伺う。高巻きラインはわからないが、雪付きは良さそうだったので、どこかで尾根には移れそうだ。あとは得意の出たとこ勝負でいこう。


偵察が終わったあたりで、高曇りになり、雪面がフラットライトで見えにくくなる。ガスもでてきて視界が奪われるたびに、何度か止まって休憩する。天候の変化に一喜一憂しながら、少しの晴れ間をついてジワジワと入道岳へ近づいていく。雪は深くなるも、かなこが黙々とラッセルしていく。どこまで雪庇か分かりづらいので、あまり北側には近づきたくない。このあたりは先月ウインドスラブが形成されていたところで、慎重に進んだが、雪崩の兆候は全くなかった。風が吹いても雪煙は無い。古雪沢源頭を突っ切り尾根に乗りあがる。


尾根に乗ったら、雪は硬くなった。1箇所大きなクラックが空いていた。エントリーできそうなところを探しながら進む。かなこはすこし下側を歩いている。急に自分のいる場所が不安になり、少し降りた。頂上はすぐだった。西側に昨年滑った八ツ峰が見える。

雲間からときどき光が差し込み、八ツ峰を照らす。相変わらず美しい。

一番高いところで記念撮影をして、灌木を掘り起こして、支点にする。ロープを結んでかなこが雪庇の方へ向かっていく。微妙そうな顔をして右往左往している。雪庇を慎重に崩して、また右往左往。

「どう?行けそう?」
「80°くらいあるよ」
いやいや、盛りすぎだろ。ロープをもらって自分の目で真実を確かめに行く。

うーん、80°くらいありますね。なんならハングしていて下が見えない。雪庇の切れ目がわからない。ラッペルするにしても40mロープでは、いま支点にしている灌木からだと足りない。
とはいえ、エントリーさえできれば滑れそうだ。すこしずつ晴れてきて気持ちも高ぶる。戻って南側の尾根からエントリーできないか探ることにしてシールオフ。来た道を戻るがトレースが風で消されてわかりにくかった。南面に戻ってきて、エントリーポイントを探る。スキーをアンカーにして、もう一度ロープを出して近づいていくとピッタリ入れる場所だった。ニヤけながら振り向いてかなこを呼び寄せる。

写真右下にデトノアイソメ。あそこへ向かう。
見上げると雪庇が張り出した入道岳が見えた。観察するとエントリー可能そうな部分もあるが、上からだとわからなかった。ドローンがあれば簡単かもしれない。今いる位置からトラバース気味にシールハイクして雪庇の直下まで行くこともできるが、ちょうど光が当たったこのタイミングでドロップすることにした。

今日一日歩いてきて、雪崩の兆候はまったく感じなかった。念のためスキーカット気味にドロップ。スラフはすこし出るものの素晴らしいパウダー。そのままノドを目指して一気に行く。ところどころクラックが入っていた。ノドの近くになるとややガタガタしていたが問題ない。心配していた屈曲部も埋まっている。ノドの通過と共に歓声をあげたところで段差に足をとられて転倒。気を取り直して中間尾根まで。
かなこもドロップ。歓声をあげながら滑っている。


バンザイしながらこっちに向かってくる。すごいニヤけていた。グータッチして一息。雪はすでに日射の影響と標高で早くも重くなってきた。
下を見ると二俣が近い。ここから核心部に入っていく。二俣の下はやはり落ち込んでいて滝の様子は伺えない。右岸は岩が出ていて、左岸は小さく巻けるか微妙なところだ。安全マージンを取って、なるべく上部で中間尾根に乗りたい。下に見えるクラックを回り込んで中間尾根を目指していく。

奥は檜廊下から中ノ岳の稜線と、水無川の最深部。
かなこが先行して中間尾根に乗る。行けそうということで、リグループ。西不動沢の支流のバーンが見える。真下はノールになっているので、トラバースして入ることにした。バカみたいに大きなクラックがあって、静止がかかる。回り込んでから中間尾根の台地まで滑ってリグループ。そろそろ足が疲れてきた。


このまま西不動沢の支流からデトノアイソメに至ることもできそうで、かなこはそちらを提案してくれた。けれど、私は冬の東不動滝の様子が見てみたかった。わがままを伝えると快諾してくれて、トラバースして東不動沢のゴルジュ帯へ復帰するという奇妙なルート取りを選択。開けた沢地形は意外と雪が走り気持ちよかった。

ゴルジュ帯にたどり着いて上を見ると、東不動滝が見えた。ずいぶん小さくなっているが埋まってはいなかった。冬にこの滝を近くから見た人はいないんじゃないだろうか。結果的には小さく巻くこともできそうだったが、ハマる可能性を考慮すると今回のルートを取らざるを得なかった。

ここから下のゴルジュ帯は完全に埋まっており、デトノアイソメまで至福のパーティーランで一気に滑り降りた。山頂からここまで標高差1100m以上の滑走だった。


冬のデトノアイソメにいることが嬉しかった。とはいえ、ここから集落までまだ8kmもある。休憩もそこそこに出発する。ところどころ割れているが、ここから先はもう滝はない。行けるところまでスキーで滑るも、すぐに重いストップ雪になり、起伏も出てきて早々にシールになった。

灼熱の水無川でタンクトップになる。左右からの雪崩に注意しながら歩いていく。といっても距離を空けるくらいしか我々にできることはないのだが。ガラガラと音を立てながら湿雪雪崩がときどき落ちてくる。かなこはマジで嫌そうな顔をしている。急斜面のトラバースや、雪庇の先の偵察を躊躇なくしていたので、あんまり恐怖心がない人かと思っていたが、基準がよくわからなくて面白かった。

オツルミズ沢からセンノ沢までの間は、昨年のルート取りと同じく、林道を避けて左岸に渡ってからブリッジで渡渉した。あとは長い林道だ。雪崩地帯を抜けたからか、元気になったかなこが重雪を率先してラッセルしていく。

と、金山橋からなんとスキーのトレースがある。物好きがクロカンでもしてるのかと話していると、トレース主が見えた。犬の散歩をしているようだ。ってWakaとさなしじゃないか。散歩ついでに迎えにきてくれたらしい。残り2.5km程だが、かなり助かった。さなしに癒されながら荒山に向かうと手を振ってる人がいる。kawazakanaさんだ。鳥甲山から下山して向かってきてくれたようだ。ありがとうございます。板並べをして、かなこと握手して山行を終えた。


都内に住んでいる頃から、越後、とりわけ駒ヶ岳が大好きで、何度も行っていた。毎回、山頂から八海山を撮影していたが、滑れそうという想像ができたのは一昨年からだった。南魚沼市に移住して、麓から毎日眺めているので、気づくと八海山への思い入れは強くなっていた。

地元に住んでいて、他の人より時間もある私が滑らないとダメだろう、というある種の使命感のようなものがあった。登り返さずに、デトノアイソメという水無川のど真ん中に飛び込む体験ができたのは幸せだ。

21-22シーズンの「山スキー&ボードの集い」での報告で、スキー一年生だったかなこは板を履いて歩いていた。私も厳冬期に深く山に入るためのスキーを初めて、基本的には歩き主体だった。あの頃スキーで歩いていた私たちが、滑りを主軸に据えた山をしているのがなんだか可笑しかった。(実際は今回もほとんど歩きだが…)
かなこの感想はヤマレコ↓